野鳥カルテ           

2003年  10−12


2001年 9−12
2002年 1−3 4−6 7−9 10−12
2003年 1−3 4−6 7−9 10−12
2004年 1−3 4−6 7−9 10−12
2005年 1−3 4−6 7−9 10−12




トビ?      12月29日
アオサギ     11月10日
ゴイサギ放鳥  11月7日
レース鳩     10月28日
ハトの病理   10月8日
ゴイサギ     10月7日




種不明の鷹
12月29日


ネットを通じて知り合った方が連れてこられました。
トビということで預かったが羽根が痛んでいるし、野生のトビとはちょっと感じが違う、ということで見せて頂きました。

一見するとトビです。が、足の色やサイズが日本のとはだいぶん違います。羽根は人為的に切られ、さらにかなり痛んでいます。
専門家に見て頂きましたが尾羽の形や長さ、翼の形、翼下面、翼長などの同定の決め手になる測定や観察ができません。机の上を本だらけにしてああでもない、こうでもないと調べましたが結局100%の同定は出来ませんでした。可能性とすればトビの亜種の可能性がありそう、とのことでした。1年経てば羽根が生え替わって生えそろうでしょうからその時に再挑戦、ということになりそうです。
いずれにしても籠抜け(でも、飛べないから可能性は低い?)か、放棄(トビといえども輸入なら数万円以上するはずだけど?)ということになるでしょう。

コキンメフクロウが貝塚市で見つかったり、長居公園でも外国産のタカが観察されています。
鴨川でもとんでもない鳥が時々見つかっています(これは有名な日本画家の飼育鳥、ということらしいけど)。

もう、今の日本では何でもあり、ということなんでしょうかね。

以前、Mさんからこんな画像もいただいています。家の近くで見かけられたというコクチョウです。これも日本にいるはずがない鳥。



アオサギの列車事故
11月10日


特急に乗っている人から ”何か鳥がぶつかったようだ”、と通報があったそうです。
駅員が調べるとこの鳥がいたそうです。
片足は皮一枚でぶら下がり、両翼(上腕骨)は開放複雑骨折、背中も一部皮膚がありません。よく生きているもんです。
しばらく考えましたが、さすがに安楽死しました。

そういえば、両翼の断翼は試みたことがありません。足が普通で小さな鳥なら試みたかもしれませんが、アオサギはけっこう怖い鳥で、いきなり目をつつきます。ちょっとペットには向いていないでしょう。




ゴイサギの放鳥
11月7日


病院でも掃除するときに院内を散歩すると、上向きに飛べるようになったので、都市公園ですが池とサギ山がある所に放鳥しました。
実はこの子、最初の手術後、別の骨折をしたため、2度目の手術を行っています。
包帯の固定期間が長すぎると関節がかたまって動きが悪くなるので、いつも数日ではずしています。その時期が早すぎたのと、ピンが短すぎたためか、その部分で骨折させてしまいました。最初の骨折部の固定は問題ないので、ピンによる外固定を後ろへのばし、髄内ピンは除去しました。

ピンの左側で骨折しています。 術後2週間。ほぼ完全にくっついている。

ピンの挿入図。理解出来ます? 30分ほど眺めていましたが動かず。
放鳥後はみんなそんなもんです。




レース鳩の上腕骨骨折
10月28日


知り合いの I 先生が連れてきて下さいました。I 先生、ありがとうございました。
足環の付いた鳩、すなわちレース鳩です。足環の番号から持ち主の方が判明しましたが、その方は ”どうにでもして”、という返事だったらしいです。
レース鳩で骨折などの事故にあったものは治療してもその後、使い物にならないので引き取らないケースも多いらしいです。町中のドバトの群れに時々こういう足環が付いたのも見かけますが、そういう理由でしいて持ち主に返す必要は無いようです。

足環に電話番号があるので、”お宅の鳩を保護しました”、って電話したら、”鳩はいりませんが足環だけ送ってもらえますか?”、”どうやってはずすんですか?”、”足を切って頂ければいいんです” という話を聞いたことがあります。本当かどうかは知りません。

上腕骨の中央部の骨折でピンニングしました。
そこそこ良い場所の骨折なので、うまくくっついて飛べることに期待しています。でも、飛んだらその家に帰っていくんだろうか。
幸い、今回のケースは保護された方が飼って下さるそうなので、飛べない方が扱いやすいかなあ。

そのつもりで見ると骨も筋肉もがっしりしてて
気品がある、かな。




ブトちゃんからお便り
10月14日


2002年12月に断翼したハシブトガラスくんの近況をいただきました。 こちら をご覧下さい。
連れてこられた方が小学校の先生で、うちで治療後飼育ボランティアに登録されご自宅で飼われておられましたが、思うところありこの夏以降、小学校で飼育を始められたそうです。
もともと、校庭で保護されたカラスでしたが、学校での飼育は法律的な根拠がないので断念していました。校長先生はじめまわりの先生のご理解もあって試験的に飼育が可能になったそうです。
ご自宅で飼われていたよりスペースが広くなり、カラスものびのび生活している様子がうかがえます。それよりも、障害を持ちながら元気に生きている姿がいわゆる教育的観点からも子供に(のみならず大人にも)良い影響を与えているそうです。はからずも私が常々考えていた、”傷病鳥は環境教育に”、との考えを実践していただいたようです。

同じく断翼したユリカモメは現在、保護された地元の岸和田にある、博物館相当施設に預けています。ここでもみんなの人気者になっていてかわいがられています。博物館というと死体や標本ばかりと思われがちですがやっぱり生き物はそれなりに訴えるものがあるのでしょう。
うちではほとんど水のない生活でしたが毎日水槽で水浴させて頂き、羽が水をはじくようになったそうです。うちでは沈むユリカモメでしたが本来の姿を取り戻しつつあるようです。

カラスにしてもユリカモメにしても、うちにいる間は朝晩に掃除のため犬舎から出されたときに病院内を散歩するだけの生活でした。引き取り手がなければ今もそういう生活をしているか、同じような放鳥できない鳥が来ればスペースの問題もあって、安楽死も選択されたかもしれません。個人的にこういう活動を続けているとどうしても放鳥できない鳥が出てくるでしょうし、個人的にもらい手を探すのも限界があると思います。大阪府の飼育ボランティアや愛鳥モデル校も機能しているとは思えない。
結局は野鳥は救護すべきかどうかの問題に戻って、いつも堂々めぐりです。




クルクルちゃんの病理結果
10月8日

獣医さんや獣医科の学生さんもこのHPをご覧になっているようですので、たまにはちょっと専門的な文を掲載します。
7月のクルクルちゃん、死亡後に脳やその他の臓器を摘出し、病理医に送りました。その診断結果です。
(本来は掲載には診断医の許可が必要とは思いますがまあ、この程度の引用ですのでお許しを。)

獣医師というのは、世間的には動物のお医者さんという認識でしょうがこれはいわゆる臨床医です。腫瘍の良性、悪性を診断したり、このように死亡原因を臓器の病理検査の面から推定するのは病理専門医のお仕事です。腫瘍だけでなく病因を探るために臓器の一部を切り取って病理専門医の診断を仰ぐこともよくあります。
組織学や病理学という授業があって、一通り私も勉強したはずですがなかなか自分で理解するには難しい学問で、こういうスライドや所見を見せられて感心するばかりです。

クルクルちゃんは脳障害を疑い、ニューカッスル病を疑ったのでその面からの病理検査をお願いしていました。
病理診断ではニューカッスルに特徴的な変化がなかったようで、血液等の材料も必要だったかもしれません。
ちなみに消化管も検査していただいていますが所見は割愛させていただきました。

【病理診断】

ウイルス性脳炎(非化膿性脳炎)

【所  見】

大脳:肉眼所見では、側脳室、第3、4脳室の拡張、あるいは出血などの異常は観察されませんでした。組織検査では、皮質において、星状膠細胞(アストログリア)や小膠細胞(ミクログリア)の活性化および増数が全体にわたり観察されます。一部の血管周囲には、軽度な囲管性の細胞浸潤が観察されます。神経細胞の多くは軽度に萎縮していますが、変性/壊死した神経細胞、およびグリア細胞による神経食現象は観察されません。神経細胞内においても、封入体やリポフスチンの沈着は観察されません。
髄質においては、神経線維の変性、脱髄や海綿状変性、および炎症細胞の浸潤などは観察されません。

小脳:分子層および顆粒層に存在する顆粒細胞、神経細胞および神経線維において、変性/壊死、脱髄や海綿状変性、および炎症性細胞浸潤は観察されません。また、プルキンエ細胞は軽度な萎縮が観察されますが、変性/壊死および封入体の形成などは観察されません。

【予  後】

生存していた場合も予後は不良です。

【コメント】

ニューカッスル病は、パラミクソウイルス科のニューカッスル病ウイルス(NDV)により引き起こされる急性の伝染病であり、特に鳩ではPigeon paramyxovirus 1(PPMV-1)により発生します。病型はウイルス株と病変の発現部位により、アジア型(急性致死型、内蔵型)とアメリカ型(慢性型、神経型)に大別されます。また、ウイルス株の病原性により、著しく高い死亡率を示す症例から、ほとんど症状を示さないものまで様々です。

臨床症状としては、アジア型では食欲廃絶、元気消失、嗜眠、下痢、呼吸器症状などを呈し、1〜3日で急死します。アメリカ型では発症後の経過が長く、下痢や呼吸器症状、および神経症状を示します。

肉眼病変としては、アジア型では腺胃や消化管の出血や潰瘍、脾臓の腫大と白斑の出現、気管粘膜の充・出血が観察されます。一方、アメリカ型では、気管粘膜の肥厚、気嚢炎、神経症状を呈した症例では中枢神経に炎症性病変が認められます。
組織学的には、プルキンエ細胞の消失、分子層におけるグリオーシスや炎症性細胞浸潤、神経細胞質内の好酸性顆粒などが観察されます。

その他、鳥類に神経症状が発現する感染症として、ピコルナウイルスによる脳脊髄炎、またPasteurella multocidaによる敗血症によっても神経症状が発現します。

本症例では、臨床所見を示唆する脳炎が観察されましたが、消化管の組織像を含め、ニューカッスル病と組織学的に確定診断できる所見は観察されませんでした。ただし、組織像からウイルス性の脳炎が疑われることから、ニューカッスル病ウイルス以外のウイルスが関与しているものと考えられます。
また、加齢性の変化として老齢性の脳軟化症により神経症状が発現することがありますが、臨床所見が老齢性の症状と異なること、組織検査においてもアミロイド斑、神経細胞へのリポフスチン沈着あるいは軟化など加齢性変化を示す所見は観察されていないことから、加齢性による変化ではないものと考えられます。

ウイルス性脳炎は一般に非化膿性の脳炎であり、組織学的には@神経細胞の変性/壊死、A血管周囲性細胞浸潤(囲管性細胞浸潤)、Bグリア細胞の結節性増生(グリア結節)またはグリア反応を三大特徴とします。特に封入体を形成するウイルスでは、神経細胞あるいはグリア細胞内にウイルス封入体の形成が確認できます。

本症例では、ウイルス性脳炎に特徴的な変化として、顕著な神経細胞の変性/壊死は観察されませんでしたが、軽度な囲管性細胞浸潤およびグリア細胞の活性化と増数が認められ、好中球浸潤などの化膿性の炎症反応は観察されなかったことから、ウイルス性の脳炎が疑われます。ただし、まれに中毒性の変化として囲管性細胞浸潤を伴う神経細胞変性が発生し、神経症状を示すことがありますが、今回の検査ではこれら疾患との鑑別は困難でした。

また、歩行障害などの神経症状の発現は、末梢運動神経や筋肉の変性による末梢性疾患によるもの、および大脳や小脳など中枢性疾患によるものに分類されます。中枢性の疾患としては小脳性協調運動障害時にしばしば観察され、小脳のプルキンエ細胞の変性により発生します。本症例では、プルキンエ細胞の変性/壊死などの顕著な傷害性変化は観察されないことから、大脳の神経細胞障害、たとえば運動野などの神経細胞の機能障害などが原因である可能性が推測されます。

なお、本症例は非化膿性の脳炎が観察されたこと、臨床所見などから、おそらく治療には反応しないものと考えられます。

専門医はこういう組織標本を作って診断します。で、構造や細胞の性質などから病因を推定していきます。
名探偵コナンみたいな世界で、わかればおもしろいんでしょうねえ。

私?そういわれればそんな気がする程度で実際はさっぱりわかりません。



ゴイサギ幼鳥
10月7日


久しぶりにゴイサギが来ました。どういう訳か、ゴイサギが来るとみんな上腕骨の骨折。
例によって例のごとく、骨折部で翼が1回転しているのもみんな同じ。幸い、開放骨折ではありませんでした。
手術自体はそんなに難しくありません。ピンを骨髄に挿入して、回転を防ぐために外側にもピンを刺し、それを外部で固定します。術後の写真を忘れました。2001年10月のところに掲載しているのと同じやり方です。

問題は
かなり痩せていることと、衰弱して自分で立たないこと。
普通は体力の回復を待って、と言うことなんですがそんなに負担になる手術でもないし、サギ類はペットとしては生きていけないと思うのですぐに手術してしまいました。
明日まで様子を見て自分で食べなければ強制給餌、と言うことになるけど、サギ類は食べさせても吐く子が多いので要注意です。

手術前と術後の写真

専門的にいえば締結ワイヤ、髄内ピン、外固定ということ、かな。
さらに専門的にいえば、髄内ピンが短すぎた。

10月9日 元気にしています。