making of VOICE  

(毎日放送、2005年6月8日火曜日放映)



発端はもちろん私のコウモリ調査です。
地元の反対派の方に生物調査を頼まれた友人から、コウモリ関係の調査を依頼されました。依頼されたといっても、その方が廃坑の位置や規模も調べて下さり、何回となく一緒に山に入り、穴に入り、コウモリがいればバンディングしていました。

毎日放送のVOICEというのは、大阪市役所のカラ残業を摘発した番組です。それが取材したい、と言ってきたのは昨年、2004年の4月でした。

取材に至るまでの詳しい話は忘れました。ある程度の知識は仕入れておられ、テングコウモリがいる事が貴重な里山の証明、と言う線で取材が始まっている感じでした。オオタカでも繁殖していればそれで一発に開発が止まった可能性もあるのに、観察はされていましたが営巣は見つかりませんでした。それ以外に、もちろん廃坑そのもの(文献的には江戸時代までさかのぼれ、実際江戸時代の陶器の破片は見つかっているらしい)の遺跡的な価値、南北朝の時代に山城があった可能性、兵庫県のレッドデータブックに掲載されている植物、昆虫が何種か見つかっている事なども開発中止の理由にしたかったけどインパクトが弱い、と言う事みたいです。で、最後の砦がテングコウモリ、と言う事になったそうです。

テングコウモリは環境省の分類では絶滅危惧種。現実的には冬にはちょくちょく廃坑で見つかります。が、もちろん個体数は極めて少ない。兵庫県でも希少種かそれに類する分類にしているはず。
このコウモリは樹洞性コウモリで繁殖、夏のねぐらは全く見つかっていません。冬にのみ、洞穴にはいる事がわかっているだけ。そういう面でも非常に興味深いコウモリです。

「今日は見つかりますかねえ」、って聞かれたけど国崎での記録はほとんどありません。隣の谷では時々見つかっているのに、肝心の開発地での記録がない。時期的にもぼちぼち「樹洞に帰る」時期。いて欲しいけど期待薄かなあ、と密かに思いながら穴にはいるとなんとすぐに発見。あっけない。見つけたけど捕獲許可がないのでさわれません。雌雄や体重ぐらい知りたいのにねえ。テレビが入ってるのでなおさら、さわれない。希少な故にデータがとれない、って何か矛盾しているなあ。と言う前に、捕獲申請していないので許可証がないのは当然なんですけど。

これも長い話しながら、テングコウモリは希少種で捕獲許可の元締めは環境省。ヒナコウモリやウサギコウモリの捕獲でさんざん環境省ともめました。その時に、「個人的な興味」では捕獲許可は出さない、って断言されました。私のコウモリ研究はもちろん「個人的な興味。」 でも、「個人的に興味がある」からこそ北摂の廃坑をさまよい歩き、キクガシラコウモリの繁殖地や各種コウモリの新生息地を見つけたんやけど。と言うようないきさつがあり、コウモリの捕獲は私は一般種を県からもらっているだけなんです。

ここが主な撮影の舞台となっていた坑道です。コキクガシラコウモリがいるので継続調査しています。見るからによさそうでしょ。
奥でこのように落盤しています。この下は数m掘り下げられ、横に坑道が続いていますが降りられないので調査していません。最初は危険なのでここまでしか調査しませんでしたが、奥にコキクが多数飛んでいくので乗り越えてみました。そうするとコキクがさらに多く見つかり、以降は恐ろしながらも、なるべくこの向こうも調査するようにしています。

カメラマンはえらい商売ですねえ。数百万?一千万?だかのカメラを抱えて這って付いてきました。実はここは、さすがの私も入らなかったのですが、友人が踏破して奥にこんな光景を見つけたのです。コウモリ的にはこんな狭いところまでは調査の必要がないのでふだんは入っていません。

>写真の青緑色の鉱物は,おそらく珪孔雀石という銅のケイ酸塩鉱物だと思います。
>この鉱物自体はあまり珍しいものではありませんが,あれだけベッタリと出来ていると
>なかなかのものです。また,このような鉱物があるということは,ほかの珍しい鉱物
>の産出も期待できるかも知れません。
友人の鉱物専門家からはこんな返事をいただいています。
別の専門家は実際にこれを採集され分析したところ、たいへんめずらしい鉱物が発見されたとおっしゃっています。

で、この子が開発中止の重責を担っているテングコウモリ。左が国崎で見つかった子、右は大阪産。

そうそう、この日は川西市の議員さん、能勢の議員さん、地元の植物研究家、郷土史研究家の方など多数の人が来ていました。
穴に入ったのは私たちと毎日放送だけでした。

郷土史研究家の方が三澤さんのインタビューを受けて、南北朝時代の山城があった可能性、奈良の大仏さんの銅を供給した可能性(奈良の大仏さんの銅は3カ所で掘られていた事が記載されている。1カ所は場所が特定されているらしい。残りが不明で、地名の「知明」は文献にある「奇妙山」に通じる可能性がある)、掘り返す事により眠っていた鉱毒が撹拌されて湖に溶け出し、足尾銅山と同じ公害をもたらすであろうことを指摘されていました。この部分、テレビでは全く触れられませんでしたね。

そういえば、とあるアセスの会社からコウモリデータの提供を求められた事があります。某所の公共工事にからんでコウモリのデータを欲しいというのです。私の調査地がその開発予定地に入っているわけではないけど、コウモリは飛ぶので影響があるかもしれない、そのための情報を収集しているということでした。結構距離は離れているけどそこまで考えてくれるケースもあるんですねえ。もちろん喜んで未発表データも含めてお知らせしました。

一方、ここのアセスでは一回も私にコンタクトを取ってきた事はありません。かなり以前から私がここのコウモリを研究しているのは知っているはずです。回り回って耳にした話では、某大学の先生がここのコウモリのアセス?調査?を引き受けたらしい。その先生からもデータの提供を求められた事はありません。無いどころか、最初は調査に入っている事すら知らなかったので、某廃坑に入った時見慣れないバンドを見つけ、てっきりかなり遠くからの移動(私の知る範囲、一番近くて奈良県の山奥でしかバンディングしていないと思った)と思い、迷った末、証拠品としてそのバンドを回収しました。あとで別の友人から某大学の先生ではないかと指摘され問い合わせるとその通りで、バンドを回収した事をそれとなく注意されました。また、私のバンドもいくつかみつけておられましたがそのデータはもらえませんでした。同じフィールドで別々のコウモリ研究者が別々の番号を付けるって、どうなってるんでしょう?結局はいつに、どこへ、何回調査に入り、何を見つけたのかはわからずじまいです。

放送では最後にネットをかけた穴の映像が流れていました。6月中に数カ所の穴を埋めるらしいです。行政の言い分はそこにいたコウモリを追い出し、再び戻らせないようにネットをかけた、という事になっています。知らないで工事を始めると生き埋めにしてしまうかららしいです。でも、私の調査ではあの穴ではコウモリは見つけた事はありません。穴の構造からも生息しそうにない。おまけにものすごく細い坑道で途中に縦穴もあり、フタをする前のコウモリの有無なんて調査できているはずがない(人が入れないんだから)。文句を言われた時のいいわけのパフォーマンスでしかありません。

三澤さんが行政側をインタビューしていた場面もありました。コウモリを追い出して別のところへ移動した事例はあるのか、専門家の意見を聞いているのかといわれ、しどろもどろの言い訳をしていました。こういうやり方に誰も文句を言わないのは、消極的にそれを認めているから、と都合の良い解釈していました。私がここへ文句を書いても、それは公ではないので文句にならないらしい。きっちり役所的な手順を踏まないと意見として上らないんでしょう。でも、この点に関しては何度も友人が説明会やアセスの縦覧(?)があった時に追求しています。環境省が絶滅危惧U類と分類している、という事はオオタカやライチョウと同じレベルなんですが。

これは今年の4月の取材です。最初の方だったかなあ、桜の大木が写っていたのですが気が付きましたか?あまり解説がなかったのでわからなかったかも。エドヒガンザクラの大木が建設予定地にあるのです。推定樹齢300年。さすがに樹勢が衰えていてここ何年かは花をあまり付けないそうです。大昔はかなり遠くからでも満開になると際だって見えたそうです。行政側は植え替えるような話をしていましたがたぶん枯れるだろうとも自分で言ってました。右側は古い炭焼きの窯。この一体にはあちこちに残っています。たしかアナグマが住処にしていたのもこの一つです。

これは冬の光景

NHKの場合は私のコウモリ研究が主体でしたので、いわば私(とコウモリ)が主役。おそらく獣医師という面でも絵になりやすかったのか。ど素人の私が考えても、こういう人物がこういうところでこんな事をしている、となると、仕事風景を撮って山へ行く姿を撮り、コウモリを捕まえるというのは普通の筋書き。

今回の主体は、貴重な里山を壊してまでゴミ焼却場を作るという問題。その場所は江戸時代からの廃坑が散在し、県民の水瓶のすぐ近く、さらに大規模住宅地が車で数分の所にある。また、すでに1ヶ所焼却場が稼働しているところ。毎日放送さんは行政側の取材、独自の調査も重ねられ、その一環としてコウモリ調査をしている私を撮影されたんだと思います。2年近く取材を重ねておられたんだからもっと突っ込んだ放送になれば良かったのに、と今になって思います。坑道を這う映像や私の仕事風景はいらんように思いました。

当然の事ながら、何百時間と撮影し、放送に使うのは数分。そういえば撮影時も場所を決め、天気の具合を見ながらフィルターをあれこれ付け替え、みんなでモニターしながら撮っておられました。プロを相手にこういうのも失礼ですが結果を見ると実に見事な映像、たいへんなお仕事ですねえ。

あんまり裏話的な話はできませんでした、というより見て頂いたそのままですので、ありませんでした、という方が正しい。

ちなみにテングコウモリの事を黄金バットと呼んだのは、一番最初に私が「黄金に輝く」というような表現を使ったからかもしれません。映像では金色には見えなかったかもしれませんが、冬にだけしか会えない、個体数も少ない、夏の生態や繁殖は謎に包まれている、という伏線があり、真っ暗な洞穴で懐中電灯をパッと当てると差し毛が金色チックに反射する光景を見るとその表現もまんざらではないと思っています。疑う人があればご一緒にあの穴を這ってみますか?

ちなみに最近聞いた話ではヒメボタルが開発予定地に見つかっているのでその調査をしているとか。これも行政側の事前調査ではふれられておらず、友人は昔からそれを指摘していました。アセスの仕組みというのはさっぱりわかりません。一番不思議なのは、行政側からお金をもらってアセスメントをおこなう仕組みです。素人の私から考えると、何も重要な発見をしてくれないアセス会社が開発にとって重宝されるような気がします。動植物の専門家で大学院を卒業後、アセスの会社に勤めておられる方は多数おられ、博物館にもよく出入りされています。「内緒だけどアセスで何が見つかってえらいこと」、とか、「アセスメントではなくアワスメントやってる」、とか言ううわさは時々聞きます。事実は事実なんだから、自分のアセス会社だけの情報だけでなく、地元の研究者の意見は広く集めるべきではないんでしょうか。

私自身、自信を持って言えるのは、あの場所でのコウモリ情報を一番多く持っているのは私達であろうということ。すでに何百頭というコウモリにバンディングしています。その動向も極めてゆっくりですがわかってきています。誰が調査したか知らないけど年に1,2回穴に入りコウモリの有無を調べるだけのような調査と一緒にして欲しくないです。
別に内緒にしているわけではなし、聞きに来て頂ければそのために情報を蓄積しているんですからいつでもよろこんでデータはお渡しします。

これも回りまわってきた話では、行政側が私のHPに文句を言うているらしい。文句があるなら、きっちり公開しているんだから役所の好きな文書ででも質問して下さいませ。