高野山のウサギコウモリ                   


ネットで知り合った方からウサギコウモリの情報を頂きました。高野山の廃屋にウサギコウモリが住み着いているのが見つかったけど、近日中に改修により追い出される、とのことでした。ウサギコウモリは環境省の分類で希少種に入りますし、大阪近郊には生息していません。名前の通り(及び、見ればわかるとおり)長ーーい耳を持った、すーーごくかわいいコウモリです。私自身は奈良県の廃坑で1頭だけ見たことがあります。その時は、そんなに珍しいコウモリ、との認識がなく、また見られるだろうと思ってしっかり観察しませんでした。それ以降縁がなかったコウモリですが、こんな形で再会できるとは思っていませんでした。

奈良県の鍾乳洞で初めて見ました。1頭で熟睡していました。


環境省とのやりとり

今回、Nさんから移動についての話を伺ったとき、すぐに環境省に連絡しました。ウサギコウモリは希少種に分類されるため捕獲には環境省の許可が必要です。ヒナコウモリの時にもちょっともめましたので、早めに相談と思い電話してみたところ、やはり許可がないと捕獲は出来ない、触ったら法律違反ですよー、の返事しかありませんでした。

私の考えは、私自身にウサギコウモリの知識がないので今回のケースが貴重なのか普通なのかの判断が付かないが、数日後には追い出される運命なんだから、せめて雌雄の確認や体重測定ぐらいしておきたい(バンドについては追跡調査困難と思うので付けない)、と思ったんですが、許可がない以上いくら相談されても無理、という答えでした。また、ウサギコウモリの何らかの情報があれば参考にしたい、とも思いましたが具体的な情報は得られませんでした。ケースによれば緊急性を考慮して早急に対応して許可を出す場合もあるらしいですが、和歌山県でのウサギコウモリの報告はあったはず(新発見ではない、ただし高野山かどうかは不明)だし、たまたま見つかっただけで、個人の興味からの捕獲許可は出せない、とのことでした。

和歌山県のウサギコウモリの分布や生態を広く調査する研究計画でもあれば、内容を吟味して許可するかもしれないが、いずれにしても今回のケースでは、どうころんでも許可は出ないし、触ったことはわかれば法律違反として対処する、とのことでした。個人の興味で、ちょっと見つかったから調査する、許可が欲しい、で許可を出していればきりがない、との事も言われました。興味があるからこそ研究者もご自分の研究をされているわけで、そのデータをいかに世に還元するかが重要なんではないでしょうか。

ウサギコウモリが希少種に分類される根拠はやっぱりめずらしいとか、データが不足しているとかの理由があってのことだし、それならそれでこういうケースでは緊急にデータを収集するのが筋だと思うんですが、また、これが普通種なら府県レベルの許可になるのでおそらく許可は出るでしょう。希少種だからさわれないしデータも集まらないというのは、どうも腑に落ちないですねえ。

この手の法律の本来の目的は動物を守ると言うことですし、そのためにもいろんなデータは必要だと思うんですが。それにそれらのデータの収集は一握りの研究者によるものではなく、連絡を下さったこの方のように、地道に地元で研究をされている方がいるからこそ基礎データが集まる、と思うんですが。環境省から継続調査の依頼が来てもいいぐらいだとおもうけどなあ。
法律から言うと捕獲して強制的に移動させるのは違法なので、コウモリごと建物を解体するほうが法にかなっていたのでしょう。


現地へ

残された日は今日(2003年5月30日)しかなく、午後から高野山まで走りました。
Nさんにお会いしてさっそく現地へ。古いお堂でした。ほぼ真四角のお堂の、横の廊下天井にひとかたまりがぶら下がっています。天井裏を予想していたのでびっくりしました。出入り口になっている扉の上が開きっぱなしですし、入って2,3mの所ですので真っ暗闇というわけでもありません。下の畳の上にはグアノがそこそこ落ちていましたが堆積というほどでもありませんでした。廊下の奥の小部屋にもいくつかがいました。しばらく眺めた後、写真撮影と捕獲を行いました。

住み着いていたお堂と、出入りに利用していたと思われる隙間。

Nさんのお話ではかなり昔に繁殖コロニーを見たことがある、ときどきお堂でコウモリが見つかることがあり、ほとんどはウサギコウモリらしい、夕方、街灯の回りを飛ぶコウモリの姿があり、バットデティクターでは30−50Hzあたりで反応がある、などのお話を伺いました。アブラコウモリはいないそうなので、ここのコウモリはウサギがほとんどなんでしょうか?

なお、これらのコウモリはすべて♀で、半数以上は大きくなった胎児が触れました。妊娠しているということはここで産む気だったのでしょうか?グアノの量から考えても一冬ここで過ごしたというほど大量ではありませんので季節移動の可能性が高いです。反面、白骨化した死体が3−4体見つかりました。いままでかなりあちこちの廃坑でコウモリを観察していますが、白骨化死体を見つけたことはほとんどありません。廃坑と違って乾燥しているし、下が土ではないので残りやすい、ということかもしれませんが、そんなに新しい死体でもないし、グアノの量と考えると話が矛盾します。

このあと、木材運搬鉄道のトンネルがある、とのことでそちらも案内していただきました。短いトンネルでしたがキクガシラコウモリが眠っていました。

和歌山県のレッドデータブックによると高野町のウサギコウモリは記載がありましたが私信なのか、引用文献はありませんでした。また、1994年以降のウサギコウモリの情報はない、とも記載されていました。触るな採るな、は確かに動物保護のため重要でしょうけど、それ以前の問題として、情報は情報としてきっちり収集する必要があると思います。ただ、今回は相談した上で捕獲は御法度というおふれを頂いています。まあ、確かに役所は法律で動いているので、事前に相談した私が悪かったのかも。相談された方が困るんだったら、”聞かなかったことにします”、とか、”あとで始末書を提出して下さい”、とか、無視するとかの対応というのは無理なんでしょうか。


そうそう、我が家、というか、浦野家は真言宗です。高野山はその総本山(でいいのかな?)ですのに、小学校以来、来たことがありませんでした。40年分のお参りをして帰りました。
ウサギコウモリが呼んでくれたのかもしれません。

合掌