Nature Study 2         

















堺市でヒナコウモリ再発見

                       浦野信孝

 2002年に大阪府堺市東三国ヶ丘町で,ヒナコウモリの繁殖コロニーが大阪府下で初めて見つかりました(浦野 2003)が,このコロニーは2002年8月29日の出巣を最後に消滅しました.その後,2002年冬と2003年春にも,ヒナコウモリとよく似た大きさのコウモリが飛来したとのことですが,確認には至りませんでした(米道 私信).
 2005年7月19日,17日に保護されたというコウモリが,浦野動物病院に搬入されました.大きさ,被毛,耳の形状などからヒナコウモリの幼獣,オスと同定しました(図1).保護された場所は大阪府堺市深井清水町の4階建てマンションの4階廊下でした.現地2階廊下ではミイラ化したヒナコウモリの幼獣,メスも発見されていました.7月19日,21日,22日夕方には,バットディテクターでモニターしながら付近を探索しましたが,ヒナコウモリの声やコロニーは発見できませんでした.少なくとも現地調査の時点で,このマンションにコロニーはなかったと考えられます.このマンションにあったコロニーが放棄された後だった可能性もありますが,むしろ離れたコロニーからたまたま飛来したと考えています.コロニーの発見にはもっと広範囲の探索が必要だったと思われます.
 ヒナコウモリは人家や人工物の隙間で7月から8月にかけて繁殖コロニーを形成することが多く,毎年同じ場所にコロニーを作ることが多いと考えられています(向山私信 ).この幼獣の発見場所と2002年のコロニーとは直線距離で約4km離れています.前回の繁殖に関係したコウモリが今回の繁殖に関係しているのかどうか,たいへん興味があります.


図1:堺市で再発見されたヒナコウモリ.

引用文献
浦野信孝(2003)大阪府で発見されたヒナコウモリの繁殖コロニー.コウモリ通信11(1): 11-12.

<うらの のぶたか>:本会評議員




兵庫県佐用郡佐用町のコウモリ

                         浦野信孝 大沼弘一 藤田俊児 川上徳子

 兵庫県佐用郡佐用町の廃坑を調査したところ,多数のコウモリを観察しましたので報告します.標高350mの,杉植林地上部に近接し2カ所(坑道A,坑道B,図1),尾根の反対側に1カ所(坑道C)の坑道があります.それぞれ,長さ100m,130m,130m,高さ2.5mの坑道が続いています.
 2005年2月22日に調査したところ,坑道Aには多量のグアノが泥状に堆積し,テングコウモリ1頭,ユビナガコウモリ1頭が観察できました.坑道Bでは入り口付近にテングコウモリ35頭,モモジロコウモリ12頭(図2),再奥部にキクガシラコウモリ1586頭(図3)を観察しました.坑道Cでは多量の泥状のグアノの堆積を見ましたがキクガシラコウモリ1頭を観察しただけでした.
 2005年7月16日に調査したところ,坑道Aにて3頭,坑道Bにて6頭のキクガシラコウモリを観察しました.坑道Cでは入り口付近にキクガシラコウモリの新生児を確認したため調査を中止し,夜間にコウモリの出洞数をカウントしました.キクガシラコウモリ58頭とユビナガコウモリ156頭の出洞を確認し,その後の内部調査で坑道内に残されたキクガシラコウモリの新生児15頭を観察しました.
 2005年10月29日に調査したところ,坑道Aにて1頭のキクガシラコウモリ,約100頭のユビナガコウモリ,坑道Bにて633頭のキクガシラコウモリ,20頭のコキクガシラコウモリ,30頭のユビナガコウモリ,坑道Cにて5頭のキクガシラコウモリ,20頭のコキクガシラコウモリ,約500頭のユビナガコウモリを観察しました.
 洞穴性コウモリは冬眠期,活動期,出産・保育期にねぐらを使い分けていると考えられています(内田,1985).ユビナガコウモリは坑道A,坑道Cを活動期に利用し,コキクガシラコウモリは坑道C,坑道Bを活動期に利用,キクガシラコウモリは坑道Cを出産・保育期に利用し,坑道Bを冬眠洞として利用,モモジロコウモリとテングコウモリは坑道Bを冬眠洞として利用しているものと思われました.
 今後も調査を継続し,これらの洞穴におけるコウモリの利用時期,種類,頭数の変化を明らかにしたく思っています.


図1 坑道Bの坑口
図2 左から2番目はモモジロコウモリ,他はテングコウモリ
図3 キクガシラコウモリ

図1 図2

図3

参考文献 内田 照章(1985) こうもりの不思議 球磨村森林組合


<うらの のぶたか>:本会評議員
<おおぬま こういち>:兵庫県自然保護協会
<ふじた しゅんじ>:本会会員
<かわかみ のりこ>:兵庫県自然保護協会




コウモリの一部白化個体

                      浦野信孝 大沼弘一 藤田俊児 川上徳子

 著者らは1999年12月より大阪府,兵庫県,京都府にて洞穴性コウモリを調査しています.今回,2種のコウモリで部分的に体色が白い個体を観察しましたので報告します.
 2003年10月26日に,兵庫県南あわじ市賀集にあるダム同士をつなぐ高さ約5m,長さ約650mの導水路を調査したところ,モモジロコウモリのメスが6個体見つかり,そのうち1個体の頚の一部が白化していました(図1).この導水路には大きなグアノの堆積が4,5カ所にあり,春にはモモジロコウモリの大きなコロニーが観察されています(大沼,私信).
 2005年10月29日に,兵庫県佐用郡佐用町の長さ約130mの廃坑を調査したところ,ユビナガコウモリ約500頭のコロニーが観察され,捕獲できた120頭のうち1個体が頚部の白変した個体でした(図2).
 モモジロコウモリの部分白化個体は,山口県秋吉台では0.48%の出現率であり,96%のもので頚部に観察されています(庫本,1990).兵庫県下での筆者の観察,100例では初めての出現でした.
 ユビナガコウモリの部分白化は同じく0.64%の出現率で,67%のもので頚部に観察されています(庫本,1990).著者らの兵庫県,大阪府500例の観察では初めての一部白化個体でした。

最後に,文献入手の便宜を図って下さった大阪市立大学,原田正史先生,柏崎市立博物館の箕輪一博学芸員に深謝します

図1 モモジロコウモリ 図2 ユビナガコウモリ

引用文献 庫本正(1990) 山口生物 17:51-53


<うらの のぶたか>:本会評議員
<おおぬま こういち>:兵庫県自然保護協会
<ふじた しゅんじ>:本会会員
<かわかみ のりこ>:兵庫県自然保護協会




高野山でウサギコウモリ発見

                          Nature Study   49(10)、2003
                          浦野信孝 西田安則

 和歌山県高野山の廃屋でウサギコウモリのコロニーが観察されましたので報告します.和歌山県伊都郡高野町大字高野山,高野山の中心地をやや離れた,10年間以上人が住んでいないと思われる標高820mの廃堂です(メッシュコード51352467).2003年5月15日に改修のためお堂に入ったところ,廊下部分の天井にコロニーが発見されました.5月30日に再調査し,14頭の集団と,少し離れた小さな部屋に3頭がぶら下がっているのが確認されました.雨戸はきっちり閉められていましたが,その上部にコウモリが出入りできる隙間があり,ここを出入り口として利用しているようでした.集団の一部を調べたところ,すべて♀で,約半数は大きな子宮が触知されました.お堂内のグアノ(コウモリの糞)は多くなかったので,出産のために最近ここに移動してきたものと推測されました.

<うらののぶたか> 本会評議員
<にしだやすのり> 日本野鳥の会会員





人工洞穴とコウモリ
                         Nature Study   49(9)、2003

                           浦野信孝


 筆者は大阪近郊に生息する洞穴性コウモリの分布や移動を調べています(浦野,2002).大阪には鍾乳洞などの自然洞穴はほとんど存在しないので,コウモリの生息は人工的な洞穴に限られます.廃坑は北摂に多く,多数の廃坑とコウモリの生息を確認しました.今回,戦争遺跡の人工洞穴2カ所を調査したところ,4種の洞穴性コウモリの生息を確認しましたので報告します.
  大阪府高槻市成合に,戦時中の大規模な軍需工場跡があります.多数の坑道が標高140mの山中に散在しています.いくつかは危険防止のために人為的に閉鎖されていますが,短いものでは数m,長いものでは70mの坑道が残されています.2003年3月30日に20カ所の坑道を調査したところ,ユビナガコウモリ,コキクガシラコウモリ,キクガシラコウモリが合計それぞれ1,1,15頭見つかりました.
  奈良県香芝市穴虫にある軍需工場跡は標高110mの谷にあります(図1).4カ所の開口部を持ち,縦横に坑道が伸びた大きな工場跡です.坑道は幅3m,高さも高いところでは3mを越え,総延長は300mを越えると思われます.2003年3月29日に調査したところ,テングコウモリ,キクガシラコウモリがそれぞれ5,1頭見つかりました(図2).
 いずれの洞穴でもグアノ(コウモリの糞)は多くありませんでしたので,繁殖や大きなコロニーを作ることは無いように思われました.テングコウモリは環境省では希少種に分類されるコウモリです.本来は樹洞性コウモリと言われていますが,冬期間のみ人工洞を利用することが知られています(阿部ら,1994).周辺地域での開発が進んでいるこの洞穴でテングコウモリが発見されたことは注目に値することです.
 軍事地下施設のコウモリについては,友が島のキクガシラコウモリについての報告があります(浦野,2001).子供の遊び場になったり,落盤,崩落の危険性があるとのことで閉鎖されるケースも多いようですが,可能なら戦争の貴重な遺跡として保存するとともに,コウモリの貴重な生息地との認識をもって,周辺の自然とともに保存して欲しく思います.


図1 香芝市穴虫の開口部
図2 テングコウモリ

阿部永監修(1994)日本の哺乳類.東海大学出版会,東京.195pp.
浦野信孝(2001)和歌山県友が島のキクガシラコウモリ.Nature Study, 47 (7):>  7.
浦野信孝(2002)北摂の洞穴性コウモリについて.コウモリ通信, 10 (1): 1-5.