Nature Study その1          



大阪府堺市でヒナコウモリ発見
                                 Nature Study 49(1)2003
                              浦野信孝 米道綱夫 佃十純 山本浩平

 2002年7月4日に大阪府堺市でヒナコウモリが保護されました.保護された場所は堺市東三国ヶ丘町5丁の鉄骨3階建ての住宅でした.レントゲンにて分娩直前の胎児2頭が確認され,後日の調査にて複数の子供が捕獲されましたのでこの家がヒナコウモリの繁殖地であることが確認されました.大阪での記録は初めてで,一番近いと思われる記録は滋賀県大津市の比叡山です(向山私信).繁殖コロニーの記録も極めて少なく,近畿地方では比叡山,福井県についで3例目です(向山私信).調査によりヒナコウモリは3階の外壁と内壁の数cmの隙間に生息していたようです.
 7月26日には272頭の出洞を確認し,以降は出洞数が漸減して8月29日を最後にコウモリは見られなくなりました.
 これらのコウモリがどこから来たのか,来年もここ,あるいは近くにコロニーを作るのかどうか,大変興味があります.

うらの のぶたか  本会評議員
よねみち つなお  大阪自然環境保全協会
つくだ かずすみ  本会会員
やまもと こうへい  鉢ヶ峯の自然を守る会


ヒナコウモリについては別ページに詳しく載せています。





和歌山県友が島のキクガシラコウモリ

                         Nature Study 47(7),2001


                                  浦野信孝

和歌山県友が島でキクガシラコウモリを発見しましたので報告します.

友が島は和歌山県加太沖にある小さな島です.夏はキャンプや釣り客で賑わいますが,冬は訪れる人も少ない静かな島です.タイワンリス,シカ,クジャクなどが野生化している島としても有名です.明治時代は紀伊水道をにらむ軍治拠点として重要な場所とされ,その時代の砲台跡や防空壕などが島内に散在しています.
 2000年12月10日および2001年2月25日にそれらを調査したところ,12月に砲台跡,2月に防空壕でキクガシラコウモリを発見しました.砲台跡では外部とつながる通路から1mほど脇に入った部屋にキクガシラコウモリが1頭,壁にぶら下がり熟睡していました(図1).2月にはL字型に曲がった防空壕の奥で発見しました.翼にはコウモリバエ(コウモリに外部寄生するハエ)が寄生していました(図2).12月にコウモリを観察した砲台跡では2月にはコウモリがいなかったので冬の間でも活動していることが示唆されました.
 キクガシラコウモリは日本各地で普通の洞穴性コウモリで鍾乳洞や廃坑などで冬眠します.大きな群れで冬眠する場合も,このように単独で冬眠する場合もあるようです.このコウモリが1年を通じて友が島に生息しているのか,海を渡ってきたのか,大変興味があります.
 コウモリ保護の立場から詳しい場所は記載しませんでした.冬眠期にコウモリを覚醒させると,無駄なエネルギーの消費につながり冬眠の失敗,すなわち死亡することもあり,観察には十分な注意が必要です.


図1:2000年12月10日 高さ約1.5mの所にぶら下がっている.
図2:2001年2月25日 キクガシラコウモリは体を翼で包み込むのが特徴的.翼に付いているのはコウモリバエ.

図1 砲台跡 図2 防空壕





大阪で初めて見つかったキクガシラコウモリの繁殖コロニー

                                     Nature Study 47(4), 2001

                                     浦野信孝・藤田俊児・松尾淳一

 筆者らは,浦野ら(2000)で大阪府豊能郡能勢町のキクガシラコウモリのコロニーについて報告しました.今回,この廃坑を再調査に訪れたところ,このコロニーでキクガシラコウモリの繁殖を確認しましたので報告します.
 2000年7月16日に再訪したところ,坑口付近に多数の蛾の羽が散乱していました.最初の直線部分にはコウモリはいませんでしたが,前回キクガシラコウモリの集団が見られた,それに続く坑道に子供を抱いたコウモリ,あるいは子供だけの集団が見られました(図1).子供は親より2回りぐらい小さく見え,自分で飛ぶこともできました.
 我々に驚いて子供を抱いたまま移動する親,子供を残して飛ぶ親,親から離れて飛ぶ子供が見られ,保育期の観察は保育放棄にもつながる可能性があるので調査を中止しました.一見したところ,この付近に70-80頭のコウモリの親子がいるように感じました.坑道はこの地点から50m以上続いているので総数ではもっといたかもしれません.コロニー付近の温度は17℃,坑口付近の外気温は29℃でした.
 洞穴性コウモリは冬眠期,活動期,出産・保育期にねぐらを使い分けていると考えられています(内田,1985).前回調査時は4月上旬の観察であり多数のコウモリがかたまって懸垂し,あるものは翼で体を包んでいたこと,テングコウモリが複数いたことから越冬洞と判断しましたが,ここで分娩が行われたと言うことはここは繁殖洞であり,分娩のため4月にこの廃坑に移動してきた,とも考えられます.しかしながら4月の調査時点でグアノ(コウモリの糞)が多量に見られたので越冬に続いて繁殖にもこの坑道を利用しているという可能性もあります.
 キクガシラコウモリに限らず,大阪府での洞穴性コウモリの繁殖記録は初めてと思われます.出産・保育期の洞穴への入洞は流産や早産,保育放棄につながるため,極力避け,やむを得ず入洞する場合も時期を選んだり,夜間親が採餌のため外出しているときに入洞する,等の細心の注意が必要です.これからもこの繁殖コロニーが継続して存続するよう願っています.今後はディスターブ(入洞による影響)に注意しながら冬期間の,この廃坑の利用について調査を進めたく思っています.

参考文献
内田 照章 (1985).  こうもりの不思議 球磨村森林組合
浦野信孝・藤田俊児 (2000)  大阪府能勢町で発見したキクガシラコウモリのコロニー
Nature Study, 46(11): 

<うらの のぶたか:本会評議員>
<ふじた しゅんじ:本会会員>
<まつお じゅんいち:本会会員>





大阪府能勢町で発見したキクガシラコウモリのコロニー

                                           Nature Study 46(11), 2000

                                            浦野信孝・藤田俊児

1 はじめに

 筆者らは大阪での洞穴性コウモリの分布を調べるため,「大阪のコウモリを調べる会」を組織し,主に廃坑を中心に生息調査をしています.北摂には放置された廃坑が数多く存在し,それらのいくつかでは少数のキクガシラコウモリ,テングコウモリ,ユビナガコウモリが越冬洞として利用しているのを確認しています.
 今回我々は豊能郡能勢町の廃坑にてキクガシラコウモリの集団越冬を確認しましたので報告します.

2 調査結果

 調査した廃坑は豊能郡能勢町の標高450mにあります.里山的な雰囲気の集落から山中に少し入った斜面にほとんど枯れかけた沢があり,その両側に坑口が点在しています.周辺は杉の植林地ですが廃坑付近は木もまばらで,枯れた台場クヌギが数本見られます.調査は2000年4月9日に行いました.
 なお,この鉱山は沢田ら(1987)が1986年と1987年に調査し,テングコウモリを報告した廃坑と同じ鉱山跡ですが,彼らは試掘坑らしい坑道(以下,試掘坑)2カ所を調査し,今回集団越冬を確認した本坑らしい坑道(以下,本坑)の調査はしていません.

 調査した山中には試掘坑4カ所と本坑1カ所が残っています.どの穴も崩壊が激しく入口は狭くなっており,内部も崩落箇所があちこちにあります.試掘坑は約20-30mで直線的にのびていますがコウモリは確認できませんでした.1カ所は少量のグアノを確認しましたのでコウモリの存在が推定できました.

 本坑は入口(図1)より15m地点で直角に曲がっており,この部分の崩落が激しく坑道が狭くなっています.そのため外部からの風などが入りにくく内部の環境変化が少ないので,コウモリにとって生息しやすくなっているようです.この曲がった部分より先にキクガシラコウモリ(図2)が数頭の集団,あるいは単独に79頭,テングコウモリ(図3)が5頭生息していました.外気温20℃,コロニー付近の温度は15℃でした.

 坑道はここからさらに80m続いており随所にグアノの堆積が認められましたので,コウモリがこの坑道を頻繁に利用している可能性が示唆されました.

3 まとめ

 キクガシラコウモリは日本各地で普通の洞穴性コウモリですが,大阪府下での報告は沢田ら(1987,1995)に限られ,70頭を越えるコロニーの記録は今回が初めてです.これらのコウモリは昆虫食であり,まとまった数のコウモリが生息するためには,かなりの自然が残っている必要があると思われます.テングコウモリの大阪府下の報告はさらに少なく,沢田ら(1987)が本鉱山で報告した1例以来の記録と思われます.テングコウモリの複数の記録は今回が初めてです.

 洞穴性コウモリは季節によりねぐらを移動するため,これらのコウモリについても継続的に調査し大阪の洞穴性コウモリの生態を明らかにするとともに,今後もこれらのコウモリが生息出来る環境を守って行きたいと思っています.

 最後になりましたが大阪の廃坑についての情報をお教え下さった本会副会長,西川喜朗先生に深謝致します.

図1 本坑入り口 図2 キクガシラコウモリ 図3 テングコウモリ


引用文献
沢田 勇・西川喜朗・原田正史・井上龍一 (1987)  北摂・丹波地方のコウモリ.
Nature Study,33(9):3-4
沢田 勇・井上龍一 (1995)  大阪府箕面市のコウモリ.Nature Study,41(3):3

<うらの のぶたか:本会評議員、浦野動物病院>
<ふじた しゅんじ:本会会員>




大阪府北部でハクビシンを発見

                             Nature Study 46(11), 2000

                           浦野信孝・西川喜朗・藤田俊児・松尾淳一


 「大阪のコウモリを調べる会」では,大阪府北部にある廃坑内のコウモリを継続的に調査しています.この廃坑は箕面市北部,植林に接する二次林内の標高420mの沢に面して開口しています.2000年4月23日の定期調査の時に,坑道内でハクビシンを発見したので報告します.
 この坑道は鉱脈に沿って約400m直線的に掘られており,入口から100m地点で先に坑道内に入っていたハクビシンを確認しました.調査のため奥に進むにしたがいハクビシンも追いつめられ,行き止まり部分で約2m離れたところから観察,写真を撮影しました.
 ハクビシンは頭胴長約50cm,体重3kg,灰褐色をしたネコ程度の大きさのジャコウネコ科の雑食性動物で,日本での分布は連続せず四国,東海地方に多く生息し,移入種(帰化生物)と考えられています.大阪府での確認例は今まで報告されていませんでした.
 ハクビシンはタヌキの穴や樹洞,岩穴などをすみかとし,出産にもこれらの穴を利用するとされています.今回のハクビシンがこの坑道を継続的に利用しているのかどうか興味があるところです.穴の最奥部で頭を岩の隙間に入れてかくれている時に腹部に乳頭を確認したので,おそらくメスの成獣の個体と思われます.少し腹部がふくらんで見えたので, 出産のために坑道に入った可能性も考えられます.今後のコウモリ調査の際にはハクビシンがこの坑道を継続的に利用しているかどうか,また他の廃坑でもハクビシンが利用している可能性があるかどうかに注意をしたいと思っています.
 名前の通り白鼻,鼻筋に白いラインがあるたいへんかわいい動物ですが,農作物を荒らす移入種なので大阪府下で見つかったことは,喜んでいられないかもしれません.
 なお,発見場所が大阪では数少ないコウモリの生息地であり,多数の人が観察に訪れるとコウモリに悪影響を及ぼすおそれが強いので,詳しい場所は書き控えさせていただきました.


<うらの のぶたか:本会評議員,浦野動物病院>
<にしかわ よしあき:本会副会長,追手門学院大学>
<ふじた しゅんじ:本会会員>
<まつお じゅんいち:本会会員>