モモジロコウモリ・新生児襲撃事件



事件直後にこのHPを作りましたが、いろいろ問題もあるようなので、2012.6に一部を書き換えました。
本来、立ち入ってはならぬところへ私が入っているので、まずそれが非難されるべきだろう、と言うことでした。誰かからは、どこかの家へ盗みに入ったら死体を発見したようなもの、と言われました。


コウモリは廃坑、廃トンネルや防空壕なんかをよく利用していて、私の調査地はほとんどがそんなところです。ほとんどの調査地はフェンスがあっても壊されていたり、廃坑では普通に抗口が開いています。でも、それらに正式に入ろうとすれば、土地の持ち主、管理者の許可が必要で、普通に考えれば危険があるので正面から許可を求めてももらえないものと思われます。(何カ所かの調査地は、友人のご尽力で許可をもらっています。)塀を乗り越えるのがダメで、穴の開いた柵をくぐるのは良い、と言うものでもないでしょう。

実際、何人かのコウモリ研究者に聞いたことがありますが、許可を取って入っている人はほとんどいませんでした。

生き物調査を大義名分に、勝手にフェンスの穴をくぐったり、塀を乗り越えることが許されるとも思いませんが、現実的にはそのようにして得られた貴重な観察例が、数多くあります。
どこかの廃坑では、稀少なコウモリが多数生息していましたが、突然、コンクリートでフタをされてしまいました。管理者はコウモリの存在には気が付いていなかった、と言うことでしょう。事前にコウモリの生息がわかっていれば、コウモリのみ出入りできるような構造の柵をもうけることが出来たかもしれません。
私の例では、大阪府では2ヶ所しか発見されていなかったユビナガコウモリの生息地のうちの一つが、同じように完全に閉鎖され、生息できなくなってしまいました。また、ここで標識したキクガシラコウモリが高野山まで35km移動したという貴重なデータが取れたところでしたので非常に残念でした。私が、ここは貴重な生息地である、って、主張すれば、上部だけ開口するとか、違った結果になっていたかもしれません。重ね重ね残念です。


この調査地ではその後、モモジロコウモリだけではなく、ユビナガコウモリも出産した気配がありました。結局、こういう事件がありながら、私自身、許可を求めることなく調査を続けています。幸か不幸か、その後(管理体制が整ったため?事件は再発していません。私自身が調査しにくくなったのは事実で、問題を表に出したことが自分の首を絞めた感じもあって、きっちりしたデータは取れずにいます。






発見、発見後の経過


2010年6月11日
モモジロコウモリの新生児が、多数殺されているのを発見する。

6月14日
ここを管理しているであろう、某社本社に相談に行く。
こういうものは本社で管理しているわけでなく、支社の管理、ということで、どこの支社が関係しているか調べる、との返事。

6月16日

某社から連絡が入る。ここはすでに、自社の管理下にはないという。最初は、某市の管理になっている可能性がある、との話であったが、某社が詳しく聞くと、某市建設局は、当市とは関係がない、との返事だったそうである。自治会に管理を任せているとの事で、某市が自治会の関係者に問い合わせたところ、近くの土地は管理しているが、入り口、内部は知らない、との返事だったらしい。

6月17日(だったか)
環境省に電話。その後、環境省は鳥獣保護法違反で、**県の関係部署に連絡した、との返事。

6月18日(だったか)
**県から連絡が来る。本当に**県か、隣県ではないか、と何度も聞かれる。(真ん中に県境がある、と思っていたらしい。)不安になって調べるが、やはり間違いなく**県。私は、調べるなら説明に行くと言うが、本庁から2時間はかかるので、簡単には見に行く事が出来ない、との返事。(個人的には、りっぱな犯罪行為なんだし、今までに記録のない貴重な観察だと思ったけど、役所的には緊急性、2時間もかけて調査する重要性はないという判断らしい。)

環境省に、とりあえず環境省の責任で、有刺鉄線を張る等の進入防止処置を出来ないか聞くが、管理者がわからない状態では無理であろう、との返事。

6月25日

**県森林整備課鳥獣保護係から連絡が来る。
自治会と相談したが、自治会も、フェンスを強化するような、お金がかかるようなことは出来ないという。県としては管理者がそういう以上、どうすることも出来ない、という。自治会は、周りの草刈り、清掃をやめて竹を植えてブッシュ化し、人が入れぬようにする、と言っている、との事。

どんなにブッシュになろうが、柵が今までと同じであれば簡単に乗り越えられる。柵の付近がブッシュになってくれれば目隠しになって、こちらも安心して柵を乗り越えられる。きれいに草を刈られた方が、人の目が気になって入りにくかった。

環境省からも、自治会と県がそういっている以上、これ以上の対策は無理、との返事が来た。

私は、別に難しい話をしているわけではなく、単に有刺鉄線を張るだけでも効果があるのではないか、と何度も言ったが、悪意で入る気になればそれでも進入可能だろうと言う話だった。要するに、県としては、何の対策をする気もないらしい。環境省もやる気は全くない。
これがトキとか、コウノトリなんかだったら話は全く違うんだろうが。コウモリに対する意識というのは、関係部署でもそんなものらしい。背中に落書きをされたアカミミガメ、以下の扱いである。

自治会にコウモリの重要性を教えて、なぜ保護が必要か、どのように保護するのかを指導するのが、役所の仕事ではないのか。地元の人にいきなり、あそこにコウモリが住んでいるので守って下さい、って言っても、絶対無理だろう。おそらく、コウモリが住んでいる事すら、ご存じなかったと思う。コウモリの重要性なんて、いきなりわかるはずもない。(結果論から言うと、県も環境省も重要性を認めなかったという事なんだけど。)

「自治会は何もしないと言ってます、県としてはそれ以上の事は出来ません。」「県がそう言ってるので、環境省としてもそれ以上の事は言えません。」
これじゃ、子供の使い。さらに、県がやる気がないのなら、それを是正、指導するのが国(環境省)の仕事なんじゃないのか。

今まで、コウモリの魅力や、大切さをアピールするため、コウモリの代弁者として一生懸命活動してきたつもりであったが、私の力なんて、結局はこんな程度でしかなかった。外来種のアカミミガメ一頭、ルアーがクチバシに刺さったカモ一羽、アヒルの首に輪っかがはまったてな「事件」でも、マスコミから行政まで大騒ぎするのに、34頭ものコウモリが殺されているのに、環境省や役所の「鳥獣保護課」の認識と対応はこの程度。

役所や環境省に、それ以上の話をする気にはならなかった。

生物多様性云々と言うが、ここのモモジロコウモリはいなくなっても、何の問題もないという事なのでしょう。いっそ、コウモリ自身が自主的に生息地を変えてくれた方が、コウモリの子孫にとっては良いことかもしれない。コウモリがこの生息地を放棄したら、今回の死体がここにモモジロコウモリが生息していたという、貴重な証拠(標本)となる。すなわち、貴重な標本を残せたのは、襲撃者のおかげ、と言うことになるだろう。

警察に、よりいっそうの巡回をお願いした、というので、そのトラップに私がひっかっかる可能性が増えただけかもしれない。


入り口の写真を掲載していましたが、
削除しました。

前面に草があったときは、目隠しになって入りやすかった。


反対側の抗口。なぜか知らぬが、こちらには上部に張り出した鉄パイプに有刺鉄線が張られている。こちらからはアプローチも難しく、人が出入りしている気配はない。数本の有刺鉄線ではあるが、これじゃ、私でも入る気はしない。(しかし、このタイプのフェンスでは、本気になれば網を切られる可能性が強い。私は、自分じゃ、この柵では調査をあきらめます。ただし、誰かが穴をあけていれば、入るだろうなあ・・・・・・・・)

草がないと、人の目が気になって入りにくいはず。誰も管理していないんだし、私も今後の調査はあきらめるので、入り口に有刺鉄線を張ればいいんじゃないかと思うが。その費用なんて、何千円の単位だろう。自治会が、このトンネルにコウモリが住み、出産しているという貴重さを理解してくれるなら、逆にそれを前面に出して保護活動をすることだって出来る。ホタルとなると自治会も行政も、養殖までしても話題作りに努力するのに、コウモリはアカミミガメ以下、ホタル以下、アヒル以下の存在でしか、ない。

いかにこの生息地が貴重であるか、いつでも話しに行くと行ってたが、お呼びがかかることはなかった。今までのデータを県なり、環境省が求めてくると言うこともなかった。おそらく、環境省も県も、面倒な話を持ってきたなあ、と思っているだけなんだろう。

人が出入りすると危険、と言う事で、それこそ土砂でも埋められたり、板でフタをされたりすると、コウモリすら出入りできなくなる。そうならなかっただけでもヨシとするか。今回の襲撃者が、殺すのに飽きてくれることに期待しようか。



発見時の状況

モモジロコウモリのコロニーの下にグアノ(コウモリの糞便)の堆積があり、その中に新生児の死体が半分埋まるように、散在していた。近くにはBB弾と思われるプラスチック製の銃弾が多数落ちており、ロケット花火の残骸、タバコが数本落ちていた。新生児の死体、34体、親コウモリの死体、1体を回収した。新生児の大きさより、殺された時期は、出産直後から2週間ほどの間ではないかと思われた。残されたモモジロコウモリはほとんど親と同じ大きさまで成長していたので、殺されたのは5月末ではなかろうか。(詳細は未検討。)

死体が埋まる状況



回収後測定のため洗浄した新生児。
翼が骨折している個体も多く見られた。体重2.6g〜7.4g、前腕長16.5〜25.8mm。