コウモリ通信 


テングコウモリの季節による洞穴利用の変化について
                                      2011年








異種コウモリの混棲について
                             2007年6月






新たに発見されたヒナコウモリのコロニー





大阪の謎のコウモリ、               

改め、
ヒナコウモリ全記録 



はじめに

*最初にこのコウモリを見せていただいたとき、ヒナコウモリではないかと思って、私のホームページに画像を載せました。
その後、環境省と専門家の方から”ヒナコウモリは捕獲許可がないと捕獲できない、許可がないのにHPにこういう画像を載せるのは問題がある”、との指摘を受け、公開をやめるように”強く”言われました。

別ページにあるように私は大阪府、兵庫県でキクガシラコウモリ、アブラコウモリ等の捕獲許可は頂いています。ヒナコウモリは希少種ということになっていて、環境省の管轄で別に申請が必要です。大阪での記録がないですし、こういう形で”ヒナコウモリに似たコウモリ”とかかわるとは思っていなかったので、わざわざ存在しないコウモリの捕獲許可をあらかじめ取るはずもありません。また、申請しても、いるはずのないコウモリの許可が出るとも思えません。

なんだかんだで最終的には私に対して、”ヒナコウモリの捕獲許可”が出ましたが、スタートに若干のつまずきがあり、私自身の無知もあったかもしれませんが、なんやらすっきりしない面もあり、発見の経過とあわせて”謎のコウモリ”として掲載します。
その後、捕獲許可が出て、7月29日に青森から向山先生をお迎えし、見ていただき、めでたく”ヒナコウモリ”になりました。

最終的に環境省からは7月22日付で捕獲許可が出ました。写真の日付はそれ以前ですが、それは保護個体を撮影したもので捕獲した個体ではないからです。


発端

堺市で自然観察会を主催され、トラフズクのペリットを研究されているTさんから、堺市でヒナコウモリに似たコウモリが保護された、との連絡を頂きました。ヒナコウモリは環境省の分類では希少種で、どの本を見てもヒナコウモリは大阪には生息していないことになっているし、聞いた場所があまりにも住宅地の真ん中なので半信半疑でした。最初は体重だけ聞いてアブラコウモリの妊娠個体ではないか、と思いました。とりあえず現物を見せてもらうことにしました。

現物を見るとかなり大きいしアブラとは似ても似つかない姿です。計測値はすべてヒナコウモリのそれでした。あわてて奈良在住の研究者の方に電話しましたがお留守で、画像をHPに掲載、広く皆様に見てもらうことにしました。
お腹が大きいのでレントゲンを撮りましたら胎児が2頭写っています。


調査開始

翌日の7月4日、Tさんとともにそのお家におじゃまし、いろいろ話を伺いました。3階建てで確かに周りより飛び出した建物でした。屋根裏の通風口が汚れておりコウモリの糞が壁にいっぱいくっついていました。ほんの2cmほどの隙間です。ベランダも毎日糞がいっぱい落ちているそうです。駐車場の車にも糞がいっぱい落ちていました。

3階に案内していただきましたが、部屋の中でもうるさいぐらいにチーチー声がしています。最初は樋で鳥が鳴いている、と思われたそうです。

夕暮れが近くなり、出洞を外から観察することにしました。7時前から7時35分までで235頭の出洞を確認しました。特に最初の10分ほどで135頭もの出洞があり、アブラコウモリよりかなり大きいコウモリの、まとまった出洞は壮観でした。
その後、ほぼ毎日Tさんが出洞数をカウントされ、7月16日には最大頭数の、272頭の出洞がありました。
以降、少数の増減を繰り返しながら傾向的には減少傾向で、7月29日の、専門家を迎えてのバンディングになりました。バンディングの顛末については後述します。


さらに新知見

7月6日、再びコウモリを保護したという連絡があり、届けられたコウモリを見るとアブラコウモリが複数混じっているように思いました。真っ黒の、小さいコウモリがいたからです。見てみると、刺毛が生えていない幼獣でした。また、♀は乳房がおおきなのが多かったので子育てしているようです。
7月4日に妊娠個体がいて、なおかつ7月6日に飛べるまで成長している子供がいる、ということはこれから分娩するコウモリがいる一方、5月末に産まれたコウモリがいると言うこと、よその例を考えると分娩時期がかなり?少し?早いと言うこと(向山先生、私信)らしいです。

3階の屋根の下に出入り口。 せいぜい2cmの隙間。

こんなコウモリです。妊娠のためでもありますがずっしり重たい。28.6g。

かわいい顔。 ご覧の通り胎児が2つ。

授乳中の♀?。乳房が発達する。 乳頭なんですがわかります?。

今年生まれの♀(左)と♂(右)幼獣。♂のオチンチン、わかりますか?。



いよいよバンディング

7月29日、青森から向山先生が、福井県の調査の後にこちらへ来て下さいました。
夕方に来られ、出洞までの待ち時間にいろいろお話を伺い、大変勉強になりました。ヒナコウモリの出産コロニーは日本中でも数えるほどしかないそうです。ここから一番近い繁殖コロニー(というか、生息地)は比叡山か福井県の離れ小島。比叡山と福井県でもかなりの年数と頭数、バンディングしているけど交流が見られないということです。
それらのバンドを付けたコウモリが今日見つかれば大発見ですがさて、結果はどうでしょう。

昼から家のまわりにある穴をガムテープでふさぎ、出口を1カ所にしぼりました。ベランダにビニールハウス状の囲いを作るための骨組みをセットしましたが、先生の経験では、煙突状のビニールの筒を取り付ければコウモリが落ちてくるはず、とのことでその段取りをして夕暮れを待ちました。

出たコウモリはビニールのトンネルを落ちて バケツに溜まる仕組み

普通なら7時過ぎから出洞するのに今日は全く出てきません。出ないどころか、穴付近からは声すら聞こえず、反対側のふだん使っていない穴付近から大きな声が聞こえます。どうも警戒しているようです。
8時過ぎまで待ちましたが間の抜けた(?)コウモリが2つ出てきただけで全く進展がありません。わざわざ青森から来て頂き、屋根裏にコウモリがいるのはわかっているのに捕まえられないのは歯がゆいものです。急遽、先に作っていたビニールハウス作戦に変更し、ビニールの煙突を取り除くと、出たくてうずうずしていたコウモリ達が出るわ出るわ、出てはビニールにぶつかって落ち、待ちかまえてる人が”ひらって”はバケツに収用、やっとバンディングが始まりました。

あわただしく急に捕獲がスタートし、バンディングに追われてビニールハウスや、コウモリ拾いをしているメンバーを撮影するヒマがありませんでした。そのあたりの状況をお見せできないのが残念です。

向山先生 バンドを付けたヒナコウモリ

結果的に総数137頭を捕獲しました。前日の出洞数から考えて、まあそこそこいい感じです。
内訳は、成獣16頭(みんな♀)、幼獣121頭。幼獣の詳細は、♂14頭、♀107頭です。向山先生の話ではコロニーが終わるときは、母親、幼獣の♂、幼獣の♀の順番に出て行くそうです。この日の構成を見ると分散の最後のステージに入っているようですね。

バンディング翌日は出洞数70頭と、激減しています。気を悪くして外に出ないコウモリもあるのでしょうが、捕獲が分散を早めたようです。出ていったコウモリがどこへ行くのかは、もちろん謎です。
バンドを付けたコウモリを見かけられましたら、といっても飛んでる状態でわかるはずはないでしょうから、捕獲、あるいは死亡後拾得された方はぜひご連絡下さい。番号は aomori という文字と5桁の番号が刻印されています。

少し気が早いですがヒナコウモリは繁殖地に執着するようです。特に今年生まれの♀コウモリは堺市が生まれ故郷になるので来年も帰ってくるはずです。でも、コウモリの糞害等を考え、この住まいは分散後閉鎖される予定です。来年、バンドを付けた、アブラコウモリより少し大きめのコウモリがこのあたりをうろうろしていたらお教え下さい。



再捕獲

分散前のコウモリの構成を見たく思い、8月8日に急遽、捕獲に再挑戦しました。
前回と同じビニールハウス方式でベランダに囲いを作りました。万全の体制で出洞を待ちましたが8時までに出てきたのは3頭のみ。前日は8時までに70頭出ていました。

感づかれたのかもしれませんが今回は別の出口からも声がしませんし、時間の都合上、ここ以外の出入り口にフタもしませんでしたが一頭も出ていないようでした。おかしいなあと思いつつ9時30分にとりあえず私は退却しました。
その後、夜中の一時までに13頭のコウモリが出てきてYさんが捕獲して下さり、翌日にバンディングしました。ほとんどが♀の子供でした。成♀もいましたのでまだ乳飲み子がいるかもしれません。

ノミが数頭採集できました。いつも見るネコノミとはずいぶん違うようでした。

9日は観察できませんでしたが、10日は24頭のみの出洞しかありませんでしたので、たまたま激減した日に捕獲を試みたのかもしれません。いずれにしても大阪のヒナコウモリ騒ぎも終わりが近づいているようです。

完成した”ハウス”。右上に小さな出口。 最後の捕獲でしょう。また会えるかなあ。


その後、8月29日の2頭を最後に大阪のヒナコウモリ騒ぎは終了しました。
ほぼ2ヶ月間、ほぼ毎日のカウント、大阪ヒナコウモリ会の皆様、お疲れさまでした。
みんなどこへ行ったのでしょう?。バンドを付けた150頭ほどとの再会はあるのでしょうか?。

ちなみに8月末に屋根裏を開けましたがグアノの堆積は全くありませんでした。3階の外壁と内装の隙間に生息していたようです。最後に残った数頭と、死亡した個体を探して標本にするつもりでしたが当てが外れました。
グアノの掃除をする方法がなく、Yさんは頭を悩ましておられます。





大阪府で発見されたヒナコウモリの繁殖コロニー

             Vol.11 No.1 2003.3 11-12

                            浦野信孝

はじめに

200274日に大阪府堺市内の住宅地でヒナコウモリが保護されました。一見して腹部が大きく妊娠していることが推定され、触診で胎児が触れました。レントゲンにて分娩直前の胎児2頭を確認し、繁殖コロニーであると判断し、調査を開始しました。

保護された場所は堺市東三国ヶ丘町、堺市中心部の住宅地内で軽量鉄骨3階建ての建物でした。南側は広い駐車場になっており、まわりは2階建ての建物が多いのでこの家(以下Y宅)だけが少し飛び出したようになっていました。

調査方法

75日よりほぼ毎日、出巣開始から終了まで、5分ごとの出巣数を記録しました。原則として、最後の出巣から10分以上出巣が無いことを確認し、出巣終了としました。5分間に出巣した数が一番多い時間帯をピーク時としました。78日、29日、88日に捕獲をおこない、幼獣(その年生まれの個体)と成獣の区別、雌雄の確認、各部位の計測とバンディングを実施しました。なお、幼獣と成獣の区別は体色(幼獣は成獣に比べて黒い)と体の大きさで判別しました。

結果

調査を開始した75日から19日までは200頭以上の出巣が確認されました(図1)。716日の272頭をピークに漸減し、810日以降は50頭以下の出巣となりました。830日には出巣を確認できず、コロニーが解消したと判断して調査を終了しました。7月上旬は日没直前に出巣し日没直後にピークを迎え、20時前後に出巣を終了する傾向がありましたが、722日以降は日没後に出巣し、日没後出巣までの時間も長くなる傾向がありました(図2)。

79日は出巣後に雨が降り出しました。1930分には雨が激しくなり、出ていくものと帰ってくるものとが交錯していました。718日は1850分頃より雨が降りはじめ、19時以降、激しい雨が降り出しました。出巣数は前日と大きな違いはありませんでしたが1945分頃より少数、帰ってくるものが見られました。
 814日、28日、29日には出巣を確認する直前にY宅周辺にて、バットデティクターに27kHz付近でヒナコウモリ様の反応がありました。

77日午後11時〜8日午前0時過ぎにかけて帰還したコウモリ10頭を捕獲したところ、成獣♀6頭、幼獣♀2頭、幼獣♂2頭でした。729日に出巣するコウモリを137頭捕獲したところ、成獣♀16頭、幼獣♀107頭、幼獣♂14頭でした。88日に出巣するコウモリを15頭捕獲したところ、成獣♀1頭、幼獣♀13頭、幼獣♂1頭でした(図3)。再捕獲は5頭ですべて29日に捕獲した幼獣♀でした。

820日に屋根裏へ入ったところ、天井裏には全くグアノはありませんでした。周辺を調べたところ、外壁のパネルとH鋼との数cmの隙間にグアノの堆積が見られました。すなわち3階の外壁と内装の隙間を利用して繁殖、生息していたものと思われました。

考察

家人の話によると5月上旬にキチキチジーという声を聞いていたが、その時点ではコウモリであるとの認識はなかったそうです。7月になってはっきりと声が聞こえ、4日に網戸に止まったコウモリを保護してはじめてヒナコウモリであると確認されました。今回、78日に飛翔する幼獣が4頭確認されました。ヒナコウモリの幼獣は、生後1ヶ月で成獣とほぼ同じ大きさになり自力飛行を始める(向山、1991)ことから、これらの幼獣は6月上旬頃に生まれたと推定されますが、これは他の地域のヒナコウモリの出産例に比べ、かなり早い時期に生まれたことになります。また、74日には出産直前の妊娠個体が確認されていることから、このコロニーの分娩期間は1ヶ月にわたると考えられました。

ヒナコウモリは♀のみから構成される繁殖コロニーを作り、通常、1頭の♀は2頭の子供を産みます。約1ヶ月間の授乳後は成獣♀、幼獣♂、幼獣♀の順番にコロニーを離れるそうです(向山私信)。78日には半数を占めていた成獣♀が、729日には半数以下になっているので、子の離乳に伴い7月中旬より成獣♀がコロニーを離れ始め、そのため出巣数が減少し始めたのではないかと思われました。

出洞開始時刻およびピーク時刻は日没時刻より徐々に遅れる傾向がありました。親子の比率の変化と関係があるように思いました。7月上旬は子育てをしている親が多く、多量の餌を短時間に食べ授乳に帰る必要があったため日没前後に出巣しているのではないかと推測しました。

814日、28日、29日にY家からの出巣前にバットデティクターの反応があったことは、近くにヒナコウモリの別のコロニーが存在するか、前日に出巣したコウモリがたまたま近くで昼を過ごした可能性が考えられました。
729日の捕獲後、数日間は出洞数が減少しました。捕獲の影響が考えられました。

最後になりましたが、バンディングにご協力下さり御指導下さった青森県立三戸高校向山満先生に深謝します。

大阪のヒナコウモリを調べる会

米道綱夫 佃十純 山本浩平 西村寿雄 藤田俊児 浦野信孝 

    (日にちが右に1目盛り、ずれています。実際の会報では訂正しています。)

      (日にちが右に1目盛り、ずれています。実際の会報では訂正しています。) 











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